はじめに:放射温度計は"非接触"の温度計
放射温度計(赤外線温度計)は、対象に触れずに温度を測れる温度計です。
ものは自分の温度に応じて"赤外線"という目に見えない光を出しています。放射温度計はその
赤外線の強さをキャッチして、対象の表面温度を推定します。
体温測定、料理、エアコンの吹き出し口、さらに工場や宇宙開発まで、さまざまな場面で活躍します。
ただし表面温度を見ている点や、材質により見え方が変わる(放射率)など、正しく使うためのポイントもあります。
みなさん、こんにちは!
お店の入り口や保健室で、おでこに「ピッ」と向けて体温を測る機械、見たことありますよね? 触ってもいないのに、どうして一瞬で熱があるかどうかわかるんだろう?と不思議に思ったことはありませんか?
実はあれ、「放射温度計(ほうしゃおんどけい)」というハイテクな温度計なんです。僕は普段、工場などで使われるプロ用の温度センサを作っている技術者です。今日は先生として、この「触らずに測れる」ふしぎな温度計のヒミツを、皆さんに特別に教えちゃいます!
すべてのモノは「光」を出している!?
いきなりですが、クイズです!「光っているものは何?」と聞かれたら、太陽や電球、燃えている炎などを思い浮かべますよね。
では、「君の持っているスマートフォン」や「机の上にある教科書」、「冷たいジュースの入ったコップ」も光っていると言われたら、信じられますか?
「え、光ってないよ!」と思いますよね。その通り、私たちの目には見えません。でも実は、この世に存在するすべてのモノは、自分自身の温度に応じた「光」を出しているんです。目には見えない光のひとつが、今回の主役「赤外線(せきがいせん)」です。
赤外線
目に見えない光
すべてのものから放射
身近な赤外線の例
焚き火やストーブに直接触らなくても、手をかざすだけでポカポカと暖かく感じますよね。あれは、炎から出ている赤外線が、皆さんの手に届いて熱を伝えているからなんです。
太陽が暖かいのも、宇宙から地球まで赤外線が届いているおかげ。そして驚くことに、炎のような熱いものだけでなく、私たちの体や、机、氷でさえも、量は少ないですが赤外線を出しています。
この「すべてのモノが自分から光(赤外線)を出す現象」を放射と呼びます。
放射温度計の「目」は赤外線を見ている
では、なぜ赤外線を測ると温度がわかるのでしょうか? 答えはとてもシンプルです。モノは、温度が高ければ高いほど、たくさんの赤外線を出すというルールがあるからです。
例えば、体温が36℃の元気なA君と、熱があって38℃のB君がいるとします。この二人から出ている赤外線の量を比べると、熱があるB君の方が、たくさんの赤外線を出しています。
放射温度計は、このモノから出てくる赤外線の「量」をキャッチするための、特別な「目」を持ったセンサーなんです。放射温度計をモノに向けると、レンズがそのモノから出てくる赤外線を集めます。そして、内部にあるセンサーがその赤外線の量を測り、「お、これだけの量の赤外線が出ているということは、このモノの温度は〇〇℃だな!」と、瞬時に計算して数字で表示してくれるのです。
まるで、モノが発している「熱のオーラ」を読み取っているみたいで、かっこいいですよね!
図で見る:赤外線を"集めて"温度に換える
ポイント:距離が離れるほど"見える範囲(スポット)"が広がる。小さな対象には近づくこと。
ちょっと応用編:「色」や「表面」で測り方が変わる?
ここで、科学が好きな君なら、こんな疑問が浮かぶかもしれません。「黒いTシャツと白いTシャツでは、温度の測り方は違うの?」
素晴らしい質問です! 答えは違います。夏の日差しの中、黒い服は熱くなりやすく、白い服はそうでもないのは、黒い色が光をよく吸収するから。実は、光をよく吸収するモノは、光を出すのも得意。逆に、鏡のようにピカピカして光をよく反射するモノは、光を出すのは苦手です。
この「赤外線の出しやすさ」のことを、専門用語で放射率(ほうしゃりつ)と呼びます。例えば、同じ80℃のお湯を、表面が真っ黒なコップと、ピカピカに磨かれた銀色のコップに入れたとします。この二つを放射温度計で測ると、黒いコップの方が銀色のコップよりも高い温度を示すことがあります。
これは、黒いコップの方が赤外線をたくさん出す(放射率が高い)ため、放射温度計が「お、こっちの方が温度が高そうだぞ!」と判断してしまうからです。
本当は同じ温度なのに、見た目(赤外線の出しやすさ)で判断を間違えてしまうことがある——だから、プロが使う放射温度計には、測るモノに合わせて放射率を設定する機能が付いています。
放射率
材質による違い
プロ仕様の設定機能
基本をつかもう
普通の温度計(接触式)との違い
接触式はセンサが対象に触れて温度を測ります。一方、放射温度計は対象から出る赤外線を受けて温度を"非接触"で推定します。
メリット:速い・離れて測れる・動く物にも対応
注意点:光沢面やガラス越しは要注意
非接触
測定が速い
動く/高温に強い
表面温度を見る
正しく測るためのコツ(超重要)
1. 距離とスポットサイズ
対象よりスポットが大きいと周りの温度が混ざります。小さな対象は近づいて測定しましょう。
2. 放射率の設定
材質によって赤外線の出方が違います。設定を対象に合わせることが大切です。
3. 環境条件
湯気・炎・ガラス越しは誤差の原因。なるべく直接"見える"位置から測定してください。
距離/スポット
放射率
環境条件
どこで使われている?
鉄を作る工場で
1500℃級の溶融金属も、離れた場所から安全に測定
食品工場で
お菓子やパン生地に触れずに清潔に温度管理
空港で
入国者の体表面温度を素早くチェック(サーモグラフィという仲間を使用)
家庭のエアコンで
人の存在や体の温度を検知して、快適な風量・風向を制御
よくある誤解を解消しよう
× "ガラス越し"でも奥が測れる?
→ いいえ。多くの放射温度計はガラス表面の温度を見ます。
× "中の温度"がわかる?
→ 基本は表面温度です。中まで伝わるには時間や別の方法が必要。
× "光る=高温"?
→ 目に見える光は一例。見えない赤外線も温度に応じて出ています。
まとめ:目に見えない世界を見てみよう!
今回のポイントは3つ:
1. すべてのモノは、温度に応じた目に見えない光「赤外線」を出している(=放射)
2. 温度が高いモノほど、たくさんの赤外線を出す
3. 放射温度計は、その赤外線の量を測って温度に変換している
身の回りの「なぜ?」「どうして?」を大切にすると、科学はもっと面白くなるよ。次の記事では、放射率の設定方法やサーモグラフィの仕組みにも一歩踏み込んでいきます。お楽しみに!
用語ミニ辞典
放射率(ほうしゃりつ)
材質ごとに"赤外線の出やすさ"が違う度合い。設定を合わせると精度アップ。
視野角(FOV)/スポットサイズ
離れるほど広い範囲を平均して見る。小さな対象は近づいて測る。
表面温度
放射温度計が基本的に示す温度。内部温度とは一致しないことがある。
読み終わったら:上の「しくみ」「種類」「コツ」へ進もう。