温度のプロが解説!知らないと危険な放射温度計の誤差と正しい対策

温度のプロが解説!知らないと危険な放射温度計の誤差と正しい対策

最終更新:2025-09-24/監修:温度計測エンジニア

放射温度計は非接触で便利ですが、使い方を誤ると大きな測定ミスに。
この記事では放射率・周囲反射・測定距離とスポットサイズという3大要因を、数式も交えつつ実務目線で解説。
すぐ現場で試せる対策までまとめました。

放射温度計の選定・誤差対策でお困りの方へ

「手軽に非接触で温度が測れて便利なはずの放射温度計。でも、なんだか指示値が安定しない…」「接触式の温度計と比べると、全然違う値が表示される…」

製造現場の工程管理や品質管理、設備の保安保全などで放射温度計を使っている方なら、一度はこんな経験をしたことがあるのではないでしょうか。

放射温度計は、物体から放射される赤外線エネルギーを捉えて温度に換算する、非常に高機能で優れた測定器です。
しかし、その原理ゆえに、いくつかの「誤差要因」を正しく理解して使わなければ、思わぬ測定ミスにつながり、製品の品質低下や設備の不具合を見逃す原因にもなりかねません。

この記事では、放射温度計で誤差が発生する3つの主な原因「①放射率」「②周囲からの反射」「③測定距離とスポットサイズ」を、数式の意味も踏まえながら体系的に解説します。
さらに、明日から現場で実践できる具体的な誤差対策まで、詳しくご紹介します。

1. なぜ放射温度計は誤差が出るのか?基本原理を理解する

すべての物体は、その温度に応じた赤外線エネルギー(電磁波)を放射しています。
温度が高ければ高いほど、より多くの赤外線を放射します。
放射温度計は、レンズで対象物からの赤外線を集光し、光検出素子でそのエネルギーを電気信号に変換、さらにその信号を温度の単位(℃など)に換算して表示しています。

この「物体が放射する赤外線エネルギーを測定する」という点が、誤差を理解する上で最も重要なポイントです。
接触式温度計が対象の「熱伝導」を利用して温度を測るのに対し、放射温度計は「熱放射」を捉えます。この違いが、誤差要因の根源となっています。

2. 誤差の主因①:最も重要で誤解されやすい「放射率」

放射温度計の誤差要因として、最も重要かつ誤解されやすいのが放射率 (ε:イプシロン)です。

放射率とは?

放射率とは、「物体がどれだけ上手に赤外線を放射できるか」を示す指標です。
完全に赤外線を放射する理想的な物体(黒体)の放射率を1.0としたとき、実際の物体がどれくらい放射できるかを0〜1.0で表します。

  • 放射率が高い(1.0に近い)物体: つや消し塗装面、人の皮膚、水、木材、プラスチックなど。
  • 放射率が低い(0に近い)物体: 磨かれた金属(アルミ、ステンレス、金など)。

放射温度計は設定した放射率で赤外線エネルギーを補正して温度を算出します。
したがって対象の実放射率と設定値がズレると大きな誤差になります。

放射率設定ミスが生む誤差(式)

多くの放射温度計は工場出荷時に放射率0.95に設定されています。
物体が放射するエネルギーを Wobj、真の温度を Tobj、放射率を ε とすると、formula1σは定数)。
温度計が表示する温度Teasformula2 で温度を求めます。
これに代入するとformula3

【具体例】

真の温度300℃(573.15K)、放射率0.2の金属を設定0.95で測ると、formula4になり、摂氏換算で約115.5℃と極端に低い表示になります。

3. 誤差の主因②:見落としがちな「周囲からの反射」

放射率が低い物体は反射率が高い(放射率+反射率=1)。
温度計は「対象が放射した赤外線」と「周囲から来て対象で反射した赤外線」の合計を受け取ります。

周囲の熱源が誤差を生む仕組み

受け取る総エネルギーformula5
放射率 ϵ が低いほど反射の影響が支配的になります。

【具体例】

300℃の金属板近くに800℃の炉壁があると、強い反射を拾って表示は真値より高くなります。
逆に寒冷環境では低く出がちです。

4. 誤差の主因③:意外と知らない「測定距離とスポットサイズ」

D:S比は距離Dで測れる円の直径Sの比。例:12:1なら12cmで直径1cm、120cmで直径10cm。

対象物がスポットより小さいと…

背景温度が混入して平均化され、値がブレたり低く出たりします。
レーザーポインタは範囲そのものを示さない機種も多い点に注意。

5. 誤差を小さくするための具体的な対策

対策1:放射率を正しく設定する

  • 放射率表を確認(材質・表面状態で変動するため目安)。
  • 接触式と付き合わせて調整(対象固有の実用的放射率を決定)。

対策2:「黒体」に近づける

  • 黒体テープを貼って放射率0.95で測定。
  • 黒体ペイント(つや消し耐熱塗料)の活用。

対策3:周囲反射を防ぐ

  • 遮蔽物で横からの入射をカット。
  • 測定角度を調整して写り込み回避。

対策4:距離とスポットを常に意識

  • D:S比を把握(仕様書確認)。
  • できるだけ近づき、対象がスポット径の2倍以上入る距離で測定。又は、可動焦点形の放射温度計を利用する。

まとめ:誤差を理解すれば、放射温度計は最強のツールに

  • 主因① 放射率:設定を合わせる/黒体テープ・黒体ペイントで安定化。
  • 主因② 周囲反射:遮蔽物・角度調整で写り込みを抑制。
  • 主因③ 距離とスポット:D:S比に基づき近接測定。又は、可動焦点形を利用する。

より詳細な情報、製品選びにお困りの方へ

主要材質の放射率一覧や、環境温度に応じた誤差がひと目でわかる「放射温度計 誤差早見表(PDF)」をご用意しています。

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よくある質問

金属面を正確に測るコツは?

黒体テープ(放射率0.95)を貼り、その表面を測る方法が最も安定します。

D:S比はどのくらい余裕を見れば良い?

対象がスポット径の2倍以上になる距離で測ると背景混入を抑えられます。

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