基本
放射温度計の測定原理を教えてください
対象物が出す赤外線(熱放射)をレンズで集め、センサーで電気信号に変えて温度に換算します。測っているのは表面温度で、レーザー光は狙いを示す目印です。
より詳細はこちらをご確認ください。
放射率って何ですか
放射率(ε)は「その表面がどのくらい赤外線を放つか」を0〜1で表す係数です。塗装面や木材などは高め(例:0.90〜0.98)、鏡面金属は低く、設定を合わせないと誤差が大きくなります。
放射率表を擁しておりますので、詳しくはこちらをご確認ください。
放射率が分かりません。どう決めればいいですか
① 放射率表で材質に近い値を仮設定 → ② 熱電対等の接触温度計で測った基準温度に合うよう微調整 → ③ 鏡面など難しい対象は、黒体テープやつや消し黒塗装で「代用面」を作って測る、と進めるのが確実です。
ガラス越しの物質を測定できますか
一般的なモデルは不可です。表示されるのは手前のガラス表面温度です。対象物を直接見通せる位置で測りましょう。
当社ではガラス用の放射温度計扱っております。詳しくはこちらをご確認ください。
放射温度計は表面だけ?内部温度は測れますか
非接触で測れるのは表面温度のみです。内部温度の確認が必要な場合は、熱電対や測温抵抗体などの接触温度計を併用してください。
放射温度計とサーモグラフィ(赤外線カメラ)の違いは?
放射温度計は一点の温度を素早く測る機器、サーモグラフィは面の温度分布を画像で可視化する機器です。広範囲の異常探知や熱の流れを見るならサーモグラフィが適しています。また、一部の放射温度計では素子等を回転させることで点ではなく線として温度を計測できる走査型放射温度計を扱っております。
レーザーで温度を測っているの?(照準用?)
温度は赤外線の量から計算します。レーザーは照準用の目印で、測定値には直接関与しません。
距離とスポットサイズ(D:S比)とは何ですか
D:S比は「測定距離(Distance):スポット径(Spot)」の比率です。距離が離れるほど測定エリアが広がるため、対象はスポット径の2倍以上の大きさを確保するのが目安です。
使い方
どのくらいの距離で狙えばよい?
取扱説明書のD:S図を目安に、対象が視野に十分収まる距離まで近づいてください。迷ったら“より近く・より小さく”が鉄則です。
動いているものを正しく測るコツは?
測定ラインをゆっくり横切るようにスキャンし、表示の最大値(ピーク)を拾います。必要なら測定値ホールド機能を使いましょう。
反射や背景の影響を避けるには?
鏡面や光沢面は周囲の赤外を反射します。背景の高温体が視野に入らない角度に調整し、必要に応じて遮光板や黒布で周囲を遮ってください。
放射率は毎回調整すべき?(ホールド機能の使いどころ)
同じ材質・仕上げなら頻繁な変更は不要です。ただし対象が変わると放射率も変わるため、材質ごとにメモしておくと再現性が上がります。ピーク/平均/最小などのホールドは用途に応じて使い分けます。
データ記録やスマホ連携はできますか
機種によっては内部メモリ、USB、Bluetoothなどでログ保存やPC/スマホ連携が可能です。必要な記録点数や形式(CSVなど)で選びましょう。
測れる/測れない
鏡面金属・アルミを正しく測るには?
鏡面は放射率が低く反射の影響が大きいです。黒体テープやつや消し黒塗装で「測定スポット」を作る、または対象に適した波長(短波長)や二色比方式のセンサーを検討してください。
液体(水・油・溶融物)は測れますか
表面が見えていれば測れますが、波立ち、泡、飛沫は読み取りを不安定にします。静かな場所や同じ位置で繰り返し測ると安定します。
食品・調理器具での活用と限界は?
表面温度の管理(鉄板・油温・ピザストーンなど)に有効です。ただし中心温度の安全確認には熱電対等の接触式温度計を使ってください。
人の体温測定に使えますか(医療用との違い)
産業用の放射温度計は医療機器ではありません。臨床的な体温判定には、対応規格(例:ISO 80601-2-56 / ASTM E1965)に適合した医療用機器をご使用ください。
炉内・防爆環境で使えますか
高温炉や危険場所では、用途に適合した専用モデル(高温対応、耐熱アクセサリ、防爆認証など)が必要です。必ず仕様と適用範囲を確認してください。
環境影響
風・蒸気・煙・粉じんが多い環境では?
赤外線が遮られて誤差が出ます。視界がクリアな位置を選び、レンズの汚れをこまめに清掃してください。又汚れに強い2色形の放射温度計を使うことで、エネルギー差から温度を計測できることもあります。ご相談ください。
強い日差しや炉の輻射熱があるときの注意
周囲の高温面からの反射で高めに出ることがあります。視野に熱源を入れない、遮光板で遮る、測定角度を調整するなどで抑えられます。
周囲温度やウォームアップ時間は?
機器には動作温度範囲があります。急な温度環境に持ち込んだ直後は、数分のなじみ(安定)時間を取ると安定します。
レンズや保護窓の汚れ・結露は誤差になりますか
はい。汚れや結露は赤外線を遮ります。柔らかい布で拭く、乾燥させるなど、取説どおりの手入れを行ってください。
トラブルシューティング
正しい温度が計測できません
よくある要因は、(a) D:S不足で視野に余計な面が入っている、(b) 放射率設定ミスや鏡面反射、(c) 蒸気や粉じんの遮り、(d) 背景の強い熱源の反射、(e) 機器の温度なじみ不足、などです。まず近づく・放射率見直し・レンズ清掃から対策しましょう。
いつも低く/高く出るのは何が原因?
一方向のズレは、放射率設定や反射の影響が疑われます。黒体テープで基準点を作って比較し、放射率を微調整してください。
視野欠け(周囲の温度が混ざる)を見抜くには?
対象の周囲に温度の異なる部分があると平均化されます。狙いを少しずつズラして最大値/最小値を探すと影響の有無が分かります。
レンズ汚れ・温度ドリフト・電池残量でどんな症状が出る?
レンズ汚れは値が不安定/低めに、温度ドリフトは環境急変後に値が落ち着かない、電池低下は表示の遅れや警告点灯として現れます。清掃と電池交換で解消することが多いです。
点検・校正
放射温度計の点検方法はありますか
現場では、校正済み接触温度計との比較が手軽です。高精度が必要な場合は黒体炉を用いた校正を実施します。
自分でできる簡易点検のコツ(黒体テープ)
鏡面や金属には黒体テープを貼って、そこを基準点とします。接触計の値に合うよう放射率を微調整でき、日常点検にも有効です。
校正の周期とトレーサビリティは?
使用頻度や求める精度に応じて周期を設定します。通常は1年おきの校正を推奨します。品質保証が必要な工程では、トレーサブルな校正証明を伴う定期校正をおすすめします。
黒体(基準放射源)とは?
放射率がほぼ1に近い基準の熱源で、放射温度計の校正に使います。温度が一定で均一な面を持ち、信頼性の高い比較ができます。
安全・規格
レーザーの安全性とクラスは?
多くはクラス2レーザーです。目に直接当てない、鏡面に向けないなど基本ルールを守って使用してください(参考規格:IEC 60825-1 / JIS C 6802)。
医療用途で使うときの注意
産業用は医療機器ではありません。臨床的な体温評価には、医療用規格に適合した体温計(例:ISO 80601-2-56, ASTM E1965)を使用してください。
防水・防塵(IP)や耐落下性能は確認できますか
仕様表のIP等級(例:IP54, IP67)や耐落下高さを確認してください。IPはIEC 60529に基づく保護等級です。
選定の目安
どのD:S比を選べば良い?
小さな対象や離れた対象を測るほど大きいD:S比が有利です。測定距離と必要スポット径を決めてから選ぶと失敗しません。
測定温度範囲・精度・再現性はどう見る?
「範囲」は届く温度の幅、「精度」は真値への近さ、「再現性(繰返し性)」は同条件で同じ値が出る安定性です。用途で必要なレベルを決め、仕様表で確認しましょう。
波長の違い(短波長/長波長)は何に効く?
高温金属など反射が強い対象は短波長が有利な場合があります。プラスチックや食品などは一般的な長波長(8–14µm)が広く使われます。
照準レーザ(単点/二点/円)の違いは?
単点は狙いやすく、二点はスポット径の目安がわかります。円形照準は視野を直感的に把握しやすい方式です。
携帯式と固定式の選び分けは?
点検やスポット測定には携帯式、ライン監視や自動記録が必要なら固定式が向いています。データ連携や応答速度で選び分けましょう。
参考資料(一般公開情報)
- IEC 60825-1 / JIS C 6802:レーザー製品の安全基準
- ISO 80601-2-56 / ASTM E1965:医療用体温計の規格
- IEC 60529:IPコード(防塵・防水)
※ 本ページの記載は一般的な原理や実務上の慣行に基づくガイドです。最終的な判断はご使用機器の取扱説明書と最新の規格に従ってください。
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