素子の種類と構造
SPRT(標準白金抵抗温度計)の感温素子には、高純度白金線が使用されています。白金線は石英やガラス製の支持構造に取り付けられ、熱膨張による機械的応力の影響を最小限に抑えるよう設計されています。この特殊な構造により、極めて高い安定性と再現性を実現しています。
SPRTには、0℃における公称抵抗値が25.5Ωのタイプと100Ωのタイプがあり、測定温度範囲や用途に応じて使い分けられます。25.5Ωタイプは国家標準機関や校正機関で広く使用されており、100Ωタイプは取り扱いや測定回路との接続が容易なことから研究機関や校正用途で利用されています。
また、使用温度範囲によって、極低温域から使用できる低温用SPRTと、金属凝固点・融点の校正に対応する高温用SPRTに分類されます。それぞれの構造は、測定対象となる温度領域で最高の安定性と精度が得られるよう最適化されています。
校正・トレーサビリティの現場実務
校正装置と標準器(比較法・定点校正)
SPRTの校正は、その用途と要求される精度に応じて、「定点校正」と「比較校正」の2つの主要な方法で行われます。
- 定点校正:ITS-90に定義されている物質の三重点、凝固点、融解点などの定義定点を利用して校正する方法です。例えば、水の三重点校正装置や金属の凝固点炉などが用いられます。これは最も高い精度が求められる校正であり、国家計量標準機関や一部の校正所で実施されます。
- 比較校正:温度分布と安定性が良好な液槽や電気炉の中に、校正対象のSPRTと、より高精度な標準温度計(例:他のSPRTや標準熱電対)を並べて挿入し、両者の指示値を比較することで校正する方法です。低温用、中温用、高温用など、測定温度範囲に応じた様々な比較校正装置が利用されます。
JCSS校正・MRAと国際相互承認
JCSS校正は、計量法に基づく計量法校正事業者登録制度(JCSS)の登録・認定を受けた校正事業者が実施する校正です。
認定範囲内で実施された校正にはJCSS認定シンボル付きの校正証明書が発行され、このシンボルは校正事業者がISO/IEC 17025の要求事項を満たし、国家計量標準へのトレーサビリティが確保されていることを示します。
また、JCSS認定機関IAJapanは、国際試験所認定協力機構(ILAC)およびアジア太平洋認定協力機構(APAC)の相互承認協定(MRA)に署名しています。そのため、国際MRA対応JCSS認定事業者が発行するILAC-MRAマーク付き校正証明書は、加盟国・地域において国際的に受け入れられます。
この仕組みにより、各国で発行された校正証明書や校正結果の信頼性・技術的妥当性が相互に認められ、国際取引や品質保証の円滑化に貢献しています。
校正試験・証明書の内容と不確かさ
校正試験では、測定された抵抗値やそれに対応する温度、そして「不確かさ」が評価されます。不確かさとは、測定結果の信頼性を表すための新しい尺度であり、測定値のばらつきの度合いを定量的に示したものです。校正証明書には、校正結果の測定値だけでなく、この不確かさの値も明記されます。ISO/IEC 17025などの規格では、不確かさの評価が必須とされており、その算出には様々な要因(校正の不確かさ、経年変化、分解能、ノイズなど)が考慮されます。不確かさの算出例として、不確かさバジェット表が作成され、各要因の標準不確かさを合成して拡張不確かさが求められます。
トレーサビリティ体系の流れ
トレーサビリティ体系は、国家計量標準から現場で使用される測定器まで、校正の連鎖が切れ目なく続くことを示すチャート図です。
- 国家計量標準:産業技術総合研究所(NMIJ)が開発・維持する最上位の標準です。
- 特定標準器・特定副標準器:国家計量標準に直接トレーサブルな標準器です。
- 登録・認定事業者(JCSS校正機関):NITE(独立行政法人 製品評価技術基盤機構)によって認定された事業者が、特定標準器などを用いて校正を行い、JCSS校正証明書を発行します。
- ユーザー(試験所、工場など): JCSS校正機関から校正された標準器や測定器を使用し、自身の計測のトレーサビリティを確保します。
この体系図により、測定器がどのような経路で校正され、国家標準まで辿り着いたかが一目で分かります。
実例:校正業務における流れとポイント
チノーのようなJCSS認定事業者は、計量法に基づく温度および湿度の校正機関としてNITEに認められており、JCSS認定シンボルマーク付き校正証明書の発行を行っています。チノーでは、熱電対や測温抵抗体、放射温度計、ガラス製温度計、電子式湿度計、露点計など、多岐にわたる温度・湿度センサーの校正に対応しています。特に標準白金測温抵抗体は、水の三重点や金属の凝固点といった定義定点での校正や、精密な比較校正が提供されており、トレーサビリティ確保を支援しています。校正の際には、センサ1本から対応可能であり、ISO9000やIATF16949などの品質システム維持に貢献しています。
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作成日:2026.06.17