TL;DR

この記事の要点

  • リチウムイオン電池の電極乾燥や、 ファインセラミックスの脱脂・焼成などでは、 水分状態が工程条件や品質に関係します。
  • 相対湿度(%rh)は、 温度によって飽和水蒸気圧が変化するため、 高温プロセスでは水分状態を管理する指標として 扱いにくくなる場合があります。
  • 露点温度、混合比、水蒸気圧など、 目的に応じた指標を使うことで、 水分状態をより具体的に把握できます。
  • 高温環境で水蒸気圧などを連続測定できれば、 乾燥・焼成工程の状態把握や、 条件変更の評価に役立てられる場合があります。

Background

高温プロセスで起きている「水分管理」の課題

電極塗工、プレス、巻回、検査など、 製造工程のさまざまな場面で 数値による管理が進んでいます。

一方で、 乾燥や焼成では 経験やノウハウによって条件が決められている工程もあります。

リチウムイオン電池では、 正極材・負極材を含むスラリーを集電体へ塗工し、 乾燥・プレスなどを経て電極を製造します。 また、セル組立後の真空乾燥(絶乾)も 水分管理が重要となる工程です。

ファインセラミックスでも、 乾燥、脱脂、焼成などの工程条件が 焼結状態や部材品質に関係します。

現場では、 「乾燥条件が品質に影響しているのではないか」 「条件変更の効果を数値で説明したい」 といった課題が生じることがあります。

その背景の一つが、 高温環境における水分状態の把握です。

Basic

なぜ「相対湿度」は高温プロセスでは使いにくいのか

湿度というと、 天気予報などで使われる 相対湿度(%rh)を思い浮かべる方が多いでしょう。

相対湿度は、 次の式で表されます。

相対湿度(%rh) = 現在の水蒸気圧 ÷ その温度での飽和水蒸気圧 ×100

飽和水蒸気圧は 温度が上がるほど大きくなります。

そのため、 水蒸気圧が同じでも 温度が高くなるほど 相対湿度の値は小さくなります。

また、 高温領域では水分量が変化しても 相対湿度の変化が小さくなるため、 水分状態の変化を 数値から捉えにくくなる場合があります。

高温プロセスでは、 相対湿度そのものが悪いのではなく、 「何を管理したいのか」に対して 指標を選ぶこと が重要です。

Indicators

高温プロセスでは何を管理すればよいのか

高温プロセスでは、 プロセス温度とは切り分けて 水分状態を把握しやすい指標を 利用する方法があります。

指標 何を表すか 特徴
相対湿度(%rh) 水蒸気圧と 飽和水蒸気圧との比 高温では変化が小さくなる
絶対湿度(g/m³) 空気1m³あたりの 水蒸気質量 温度・圧力の影響を受ける
露点温度(℃) 空気が 結露し始める温度 水分状態の把握や 結露管理に利用される
混合比(g/kg) 乾き空気1kgあたりの 水蒸気質量 温度変化に依存しない
水蒸気圧(Pa) 水蒸気の分圧 水分状態を表す 基本的な指標

露点温度、混合比、水蒸気圧には、 「現在の炉温そのもの」ではなく 水分状態を評価するための指標として 扱えるという特徴があります。

そのため、 乾燥炉、脱脂炉、焼成炉などでは、 相対湿度だけではなく、 目的に応じてこうした指標を 使い分けることが重要になります。

Measurement

高温で水分を測るときの難しさ

高温プロセスでは、 「何を測るか」だけでなく 「どう測るか」も重要です。

一般的な湿度センサには、 常温環境を前提としたものも多いため、 高温環境では次のような課題が生じます。

  • センサの耐熱温度に制約がある
  • サンプリング配管で結露が発生する可能性がある
  • インラインでの連続測定が難しい
  • 既存設備への後付けで設置条件が問題になる

さらに、 燃焼炉などでは酸素濃度が変化するため、 水蒸気圧の計測精度に影響する場合があります。

こうした課題に対して、 高温環境の雰囲気中で 水蒸気圧をインラインで連続測定できる 湿度計が実用化されています。

また、 酸素濃度を同時に測定して補正することで、 燃焼などによる酸素濃度変化の影響を 抑えながら測定する方法もあります。

水蒸気圧を実測できれば、 そこから露点温度、混合比、相対湿度などを 演算によって求めることができます。

そのため、 実際の工程で必要な管理指標に合わせて データを利用できます。

Applications

業種別に見る水分管理

Lithium-ion Battery

リチウムイオン電池の電極製造

電極乾燥では、 溶媒の蒸発速度や乾燥条件が 電極構造や品質に影響します。

炉内の水分状態を連続的に把握することで、 乾燥条件の検討、 乾燥ムラの把握、 条件変更の定量評価などへ 活用しやすくなります。

また、 セル組立後の真空乾燥(絶乾)でも、 水分管理は重要な管理項目です。

Fine Ceramics

ファインセラミックスの脱脂・焼成

脱脂・焼成工程では、 雰囲気条件が焼結状態や 部材品質に関係します。

水蒸気圧などの客観的なデータを蓄積することで、 条件の標準化や ノウハウの形式知化、 品質改善の再現性向上に つなげられる場合があります。

共通しているのは、 「炉の中で何が起きているか」を 数値で把握する という考え方です。

水分状態を測定することで、 品質改善、省エネルギー、 生産性向上について データをもとに検討しやすくなります。

Before Adoption

導入を検討する前に整理したい3つのポイント

ポイント 整理すること
1. どこを測るのか 乾燥炉入口・出口、 脱脂炉排気ラインなど、 水分状態を確認したい測定ポイント
2. どう組み込むのか 新設設備か既存設備への後付けか、 設置位置や配管条件など
3. 何に使うのか 条件監視、 品質評価、 改善前後の比較、 トレーサビリティなど

投資対効果を評価する場合も、 まず測定データを取得して 現状を把握することが重要です。

「どの場所を、何のために測るのか」を明確にしておくと、 必要な計測方法を検討しやすくなります。

Summary

見えない水分を「測れるデータ」に変える

高温プロセスの品質改善とは、 経験や勘を否定することではありません。

これまで見えにくかった水分状態を測定し、 そのデータによって 経験やノウハウを補強できるようにすることです。

高温環境では、 相対湿度だけでは 水分状態を十分に捉えにくい場面があります。

そのため、 水蒸気圧、露点温度、混合比などの指標を 目的に応じて使い分け、 高温環境でも測定できる方法を組み合わせることで、 乾燥・焼成工程を データで把握しやすくできます。

高温プロセスの水分管理を検討するときは、 まず「どこで」「何を」「何のために」測るのかを 整理することから始めるとよいでしょう。

FAQ

よくある質問

相対湿度と露点温度はどちらを使えばよいですか?

目的によって異なります。 常温環境では相対湿度が扱いやすい一方、 高温プロセスでは 水蒸気圧、露点温度、混合比などを 管理指標として利用する方法があります。

高温の乾燥炉・焼成炉にも湿度計を設置できますか?

設置可否は、 炉の温度、雰囲気、測定位置、 既存設備の構造などによって異なります。 高温環境への対応を想定した計測方法もあるため、 設備条件を整理したうえで検討することが重要です。

まず何から始めればよいですか?

まずは、 自社工程のどこで水分状態を把握したいのか、 何を評価・改善したいのかを整理し、 測定ポイントを明確にすることをおすすめします。

水蒸気圧を測ると何が分かりますか?

水蒸気圧は水蒸気の分圧を示す指標です。 実測した水蒸気圧から、 目的に応じて露点温度や混合比、 相対湿度などを演算することもできます。

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