Chapter 1
なぜ放射温度計には特有の誤差があるのか
放射温度計は、 対象物から放射される赤外線エネルギーを検出し、 その強さから温度を求めます。
接触式温度センサのように対象物へセンサを接触させて 熱的に温度を検出する方法とは、 測定原理そのものが異なります。
| 方式 | 何を利用するか | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 接触式 | 対象とセンサ間の熱伝達 | 接触状態、挿入深さ、熱の逃げ、応答性 |
| 放射温度計 | 対象から届く赤外線 | 放射率、反射、測定距離、光路、対象表面 |
したがって、 放射温度計を正しく使うには 「温度計の精度」だけを見るのではなく、 対象からどのような赤外線が温度計へ届いているか を考える必要があります。
放射温度計の原理、放射率、D:S比、 機種選定そのものを詳しく知りたい場合は、 基礎からまとめたガイドをご覧ください。
Cause 1
原因1:放射率の設定が対象物と合っていない
放射温度計の誤差を考えるうえで、 特に重要なのが放射率です。
放射率は、 同じ温度の黒体と比較して、 対象物がどの程度の熱放射をするかを表す値です。 0から1の範囲で表されます。
放射率は材質だけで一意に決まるものではありません。 表面の粗さ、酸化、塗装、波長、温度などによって変化します。
比較的放射率が高い表面
塗装面や酸化した表面などは、 比較的高い放射率を示す場合があります。
低放射率になりやすい表面
光沢のある金属面などは 放射率が低くなりやすく、 周囲からの反射の影響も受けやすくなります。
放射率表に掲載されている値は目安です。 同じ材質でも表面状態や測定条件によって値が変わるため、 表の数値をそのまま設定すれば必ず正しく測定できる、 というものではありません。
放射率を間違えるとなぜ大きな誤差になるのか
放射温度計は、 検出した赤外線エネルギーと設定した放射率などから 対象物の温度を求めます。
そのため、 実際の対象物の放射特性と温度計の設定が大きく異なると、 表示温度にも大きな差が生じることがあります。
特に光沢金属のような低放射率の対象では、 放射率設定だけでなく 周囲から反射してくる赤外線も合わせて考える必要があります。
Cause 2
原因2:周囲の熱源が対象物に映り込んでいる
放射温度計が受け取る赤外線は、 対象物自身から放射されたものだけとは限りません。
特に赤外線を透過しない対象物では、 対象物自身の放射に加えて、 周囲から対象表面で反射した赤外線が 温度計へ届くことがあります。
光沢金属などの低放射率面では、 この反射の影響が大きくなりやすいため注意が必要です。
高温の炉・ヒータが近い
高温物からの赤外線が対象表面で反射すると、 実際より高い温度として測定される場合があります。
周囲が低温
測定条件によっては、 低温の周囲環境からの影響により 表示値が低くなる場合があります。
測定角度を少し変えたときに表示値が大きく変化する場合は、 周囲からの反射が影響していないか確認する 一つの手掛かりになります。
Cause 3
原因3:測定距離が遠く、対象物以外も測っている
放射温度計は、 レーザーが当たっている一点だけの温度を 測っているとは限りません。
実際には、 機種ごとに定められた測定視野の範囲から 赤外線を受け取っています。
この関係を理解する目安として D:S比が使われます。 Dは測定距離、Sはその距離での測定径を表します。
例えばD:S=12:1であれば、 単純な目安として距離120mmで 約10mmの測定径に相当します。 ただし、実際の視野特性は機種によって異なるため、 製品仕様の測定径・測定距離図を確認してください。
対象物が測定視野より小さい場合
測定視野の中に背景が入ると、 対象物以外から届く赤外線も検出するため、 本来測りたい対象の温度と異なる値になることがあります。
小さな部品、細い配管、離れた場所の測定では 特に注意が必要です。
「対象物はスポット径の何倍必要」という一律のルールではなく、 使用する放射温度計の測定視野仕様に対して、 対象物が十分な大きさを持つか確認してください。
Other factors
放射率・反射・距離以外にもある誤差要因
測定値が合わない原因は、 代表的な3要因だけとは限りません。
| 確認項目 | 起こり得ること |
|---|---|
| 測定角度 | 角度や表面状態によって、 見かけの放射特性や反射の影響が変わる場合があります。 |
| 窓・ガラス | 一般的なガラスなどは、 使用する波長域の赤外線を十分に透過しない場合があります。 |
| 煙・蒸気・粉じん | 光路上の物質によって赤外線が吸収・散乱され、 測定に影響する場合があります。 |
| 対象表面の変化 | 酸化、汚れ、塗装、濡れなどによって 放射率が変化することがあります。 |
| 温度計周囲の環境 | 使用温度範囲外や急激な周囲温度変化などが 測定に影響する場合があります。 |
| 測定している場所 | 放射温度計は基本的に表面温度を測定するため、 内部温度や接触式センサの測定位置とは一致しない場合があります。 |
Troubleshooting
症状から原因を切り分ける
「測定値が低い」とき
- 放射率設定が対象表面に合っているか
- 測定対象が測定視野より十分に大きいか
- 低温の背景が測定視野へ入っていないか
- 窓材などを通して測定していないか
- 本当に同じ表面位置を比較しているか
「測定値が高い」とき
- 炉壁、ヒータ、照明など高温物が近くにないか
- 光沢金属面へ周囲の高温物が反射していないか
- 測定角度を変えると値が変わらないか
- 対象表面の状態が想定と変わっていないか
「値がふらつく」とき
- 対象物が測定視野より小さくないか
- 対象物や温度計が動いていないか
- 測定位置が毎回変わっていないか
- 反射する周囲環境が変化していないか
- 煙、蒸気、粉じんなどが光路を横切っていないか
「接触式温度計と値が合わない」とき
まず、両方の温度計が 本当に同じ温度を測っているかを確認してください。
放射温度計は表面温度を測ります。 一方、接触式温度センサでは、 センサの取り付け位置、接触状態、挿入深さ、 熱の逃げなどが測定値に影響します。
したがって、 「二つの温度計の表示が違う」という事実だけでは、 どちらが正しいかを判断できません。
Countermeasures
放射温度計の誤差を小さくするための対策
1. 放射率を確認する
材質名だけで判断せず、 表面状態や測定条件を確認します。
2. 高放射率面を利用する
条件が許せば、 放射特性が既知のテープや塗装面などを利用して 測定条件を安定させる方法があります。
3. 周囲反射を確認する
高温物の映り込みが疑われる場合は、 測定角度や周囲環境を変えて 表示値への影響を確認します。
4. 測定視野を確認する
対象物が測定視野を十分に満たすように、 距離、測定径、機種の光学仕様を確認します。
5. 測定条件を固定する
測定位置、距離、角度、対象表面などを できるだけ一定にすることで、 測定の再現性を高めやすくなります。
6. 必要なら校正を確認する
測定条件を確認しても値に疑問が残る場合や、 品質保証上の信頼性が必要な場合は、 校正の状態も確認します。
非接触温度計測における校正については、 以下の記事で詳しく解説しています。
Download
放射率・誤差早見表を確認する
主要材質の放射率や、 放射温度計の誤差を確認するときに使える 「放射温度計 誤差早見表」をご用意しています。
放射温度計 誤差早見表
現場で放射率や測定誤差を確認するときの 参考資料としてご利用いただけます。
FAQ
放射温度計の誤差についてよくある質問
Q. 放射温度計と接触式温度計の値が違います。どちらが正しいですか?
表示値だけでは判断できません。 放射温度計は主に表面温度を測定し、 接触式温度計はセンサの接触状態や設置方法の影響を受けます。 測定位置、対象、設置条件をそろえて原因を切り分ける必要があります。
Q. 金属を放射温度計で測ると値がおかしくなるのはなぜですか?
光沢金属などは放射率が低く、 周囲からの赤外線を反射しやすいためです。 放射率設定だけでなく、 周囲の高温物や測定角度なども確認してください。
Q. 黒体テープを貼れば正確に測れますか?
放射特性が既知のテープを利用する方法は、 測定条件を安定させる一つの方法です。 ただし、テープの耐熱温度、密着状態、 対象との温度差、使用波長なども考慮する必要があります。
Q. レーザーポインタが対象に当たっていれば測定できますか?
必ずしもそうではありません。 レーザーは照準の目安であり、 実際の測定視野そのものを示していない機種もあります。 製品仕様の測定径・測定距離を確認してください。
Q. ガラス越しに温度を測れますか?
使用する放射温度計の測定波長と 窓材の透過特性によって異なります。 一般的なガラスが測定波長の赤外線を透過しない場合は、 ガラス越しに対象物の温度を正しく測定できません。
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