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PID調整とは何をすることか
PID制御では、P(比例)、I(積分)、D(微分)の働きを 組み合わせて操作量を決めます。
その働きを決める比例帯、積分時間、微分時間などの PID定数を変更すると、 温度が目標値へ近づく過程も変化します。
PID調整とは、この関係を利用して、 目的とする制御応答へ近づけていく作業です。
「正解のPID定数」を探す作業ではない
PID調整というと、 設備に対して一つの「正しいPID定数」が存在するように 思えるかもしれません。
しかし、できるだけ早く設定温度へ到達させたい場合と、 オーバーシュートをできるだけ小さくしたい場合では、 重視する制御応答が異なります。
また、同じ設備でも設定温度や負荷、 材料などの運転条件が変われば 制御応答が変化することがあります。
PID調整を始める前に、 「現在の制御の何を改善したいのか」を 明確にすることが重要です。
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PIDを調整する前に、本当にPIDが原因か確認する
温度が思い通りに制御できないからといって、 必ずPID定数に原因があるとは限りません。 PIDを変更する前に、制御ループ全体を確認します。
PVは正しいか
最初に確認したいのがPVです。 温度センサが制御したい対象を正しく測れていなければ、 そのPVを使ってPIDを調整しても期待する結果にはなりません。
センサの取り付け位置、挿入深さ、応答、 周囲からの熱影響、センサや配線の状態などを確認します。
MVはどう動いているか
次に確認したいのがMVです。 PVだけを見ると「温度が上がらない」という事実しか分かりません。
しかし、PVが設定値まで上がらない一方で MVが100%付近なら、 調節計はすでに大きな操作量を要求していることが分かります。
この場合には、PID定数だけでなく、 ヒータ能力、熱損失、負荷なども確認する必要があります。
MVどおりに設備が動いているか
調節計が適切なMVを出していても、 その操作量が実際の設備へ反映されていなければ 温度は期待どおりに変化しません。
電気ヒータを使用する設備なら、 サイリスタレギュレータやSSRなどの操作機器、 電源、ヒータそのものも制御ループに含まれます。
運転条件は変わっていないか
以前は安定していたのに制御状態が変わった場合には、 材料や投入量、流量、設定温度、周囲温度、 扉の開閉などの条件が変化していないかも確認します。
PID定数が同じでも、 制御対象の条件が変われば応答も変化することがあります。
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PID調整ではPVとMVを一緒に見る
PID調整では、PVだけを見るのではなく、 できるだけMVも同じ時間軸で確認します。
PVから分かること
PVを見ることで、SVへ近づく速さ、 オーバーシュート、ハンチング、整定時間、 オフセットなどを確認できます。
PVは、制御した結果を見るための情報です。
MVから分かること
MVを見ると、その結果を得るために 制御装置がどのような操作を要求していたのかが分かります。
| PVの状態 | MVの状態 | 最初に考えたいこと |
|---|---|---|
| 温度が上がらない | 100%付近 | ヒータ能力、操作機器、熱損失、負荷なども確認する |
| 温度が上がらない | 十分に上がっていない | PID設定やその他の制御設定を確認する |
| SV付近で上下する | MVも大きく上下する | PIDによる制御動作を詳しく確認する |
| SV付近で上下する | MVは比較的安定 | 外乱や設備側の変化も確認する |
「PVがおかしいからPIDを変える」のではなく、 「PVがこのように動いているとき、MVはどう動いているのか」 と考えることが、原因の切り分けにつながります。
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制御波形はどこを見るのか
PID調整では、時間に対するPVやMVの変化を見ながら 制御状態を評価します。
| 見る項目 | 確認すること |
|---|---|
| 立ち上がり | SVへどのくらいの速さで近づくか |
| オーバーシュート | PVがSVをどの程度超えるか |
| ハンチング | SV付近で周期的な振動が続いていないか |
| 整定時間 | 安定した状態になるまでどのくらいかかるか |
| オフセット | 安定後もSVとPVとの間に差が残っていないか |
| MV | そのとき制御装置がどの程度の操作をしているか |
一つの指標だけで制御の良し悪しを決めないことも重要です。 たとえば立ち上がりを速くしようとした結果、 オーバーシュートが大きくなるなど、 複数の評価項目が関係することがあります。
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立ち上がりが遅い
「設定温度までなかなか上がらない」は、 PID調整でよく意識される症状の一つです。 ただし、最初に確認したいのはPID定数ではなくMVです。
MVがすでに大きい場合
MVが100%付近まで出ているのにPVの上昇が遅いのであれば、 調節計はすでに大きな加熱を要求しています。
この場合には、ヒータ能力、電源、操作機器、 熱損失、制御対象の熱容量、負荷などを確認します。
PID定数を変更しても、 利用できる加熱能力そのものを超えることはできません。
MVに余裕がある場合
PVがSVから大きく離れているのに MVが十分に上がっていない場合には、 PID設定やその他の制御設定を確認する意味があります。
「温度が上がるのが遅い=PIDを強くする」 と決めつけず、PVとMVの両方を確認します。
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オーバーシュートが大きい
オーバーシュートとは、 PVがSVを一時的に超える現象です。
PID調整では単に「何℃超えたか」だけではなく、 SVをどのように超えたのかを確認します。
- 急速に上昇して大きく超えた
- ゆっくりSVへ近づいた後に超えた
- 超えた後すぐ安定した
- 超えた後も上下を繰り返した
同じオーバーシュートでも波形の特徴は異なります。 「オーバーシュート=特定のPID定数を変更する」 という一つのルールで判断するのではなく、 PVとMVの波形を見ながら原因を考えます。
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ハンチングする
ハンチングとは、 PVがSV付近で周期的に上下を繰り返す状態です。
温度が設定値付近に到達していても、 上下動が続けば安定した制御になっていない場合があります。
PVとMVがともに大きく振動している
制御装置の操作そのものが 大きく変動している可能性があります。 P・I・Dの働きと波形との関係を詳しく確認します。
MVは安定しているのにPVが振動している
MVが大きく変化していないにもかかわらず PVが変動しているのであれば、 外乱や設備側の変化などPID以外の要因も確認します。
同じ「ハンチング」という症状でも、 PVとMVの関係によって確認すべき場所が変わります。
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設定値付近まで来ても安定しない
PVがSV付近まで到達しても、 その後長時間にわたって上下し、 なかなか安定しない場合があります。
このとき確認したいのが「整定時間」です。 整定時間とは、制御を開始してから PVがSV付近の安定した状態へ落ち着くまでの時間です。
ここでは、 「SVへ到達するまでが遅い」のか、 「SVへ到達してから安定するまでが長い」のかを 分けて考える必要があります。
前者であれば設備能力なども関係します。 後者であればPID設定や外乱などを含めて、 設定値付近でのPV・MVの動きを詳しく確認します。
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オフセットが残る
オフセットとは、 制御が安定した後もSVとPVとの間に残る定常的な差です。
P動作だけでは、操作量を維持するために一定の偏差が必要となり、 オフセットが残ることがあります。 このような継続する偏差を小さくするためにI動作が利用されます。
ただし、SVとPVに差があるからといって すぐにIを変更するのではなく、 センサ、設定、出力の上限・下限、 設備が必要な操作を実現できているかなども確認します。
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PID定数を変更するときの基本
PID調整では、 変更そのものより「変更前後を比較できること」が重要です。
何を変更したのか明確にする
P・I・Dを変更した場合には、 どのパラメータを、どの値から、 どの値へ変更したのかを記録します。
一度に大きく変えすぎない
PID定数を大きく変更すると、 制御応答も大きく変化することがあります。 制御対象や調節計の仕様を確認しながら段階的に調整します。
条件をそろえて比較する
PID定数を変更する前後で、 SV、負荷、材料量、初期温度、周囲条件などが大きく異なれば、 波形の違いがPID変更によるものなのか判断しにくくなります。
調整結果を記録する
| 項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| SV | 設定値 |
| P | 変更前/変更後 |
| I | 変更前/変更後 |
| D | 変更前/変更後 |
| 運転条件 | 負荷、材料、初期状態など |
| 変更前 | 波形の特徴 |
| 変更後 | 改善した点・悪化した点 |
| 判断 | 継続、再調整、元に戻すなど |
記録を残すことで、 PID調整を勘による作業ではなく、 変更と結果を比較する作業として進めやすくなります。
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PIDを調整しても改善しない場合
PIDを変更しても目的とする応答にならない場合は、 PID以外の要因を改めて確認します。
SENSOR
センサ
制御したい場所を正しく測れているか確認します。
HEATER
ヒータ
必要な加熱能力があるか確認します。
ACTUATOR
操作機器
MVに応じた操作を実際に行えているか確認します。
THERMAL CAPACITY
熱容量
設備や対象物そのものが温度変化に時間を要していないか確認します。
DEAD TIME
むだ時間
操作してからPVへ影響が現れるまでに大きな遅れがないか確認します。
DISTURBANCE
外乱
材料投入、扉開閉、流量、周囲環境などの変化を確認します。
設備特性によっては、 PID調整を続けるのではなく、 カスケード制御など制御系の構成そのものを 検討する場合があります。
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PID定数を自動で求める方法
PID定数を一から決める場合などには、 オートチューニング機能を利用できる調節計もあります。
オートチューニングでは、 制御対象の応答を利用してPID定数を求めます。
ただし、求められたPID定数が すべての運転条件で最適とは限らないため、 実際の運転状態で制御応答を確認することが重要です。
Practical Examples
CHINOの具体的なPID調整例を見る
ここまで説明してきたのは、 PID調整を行うときの一般的な考え方です。
CHINOでは、DBシリーズ・KPシリーズを使用した 具体的な温度制御波形をもとに、 「8種のPID調整方法」を公開しています。
温度の振動、オーバーシュート、整定時間などについて、 P・I・Dを変更したときの波形の変化を 具体例として確認できます。
掲載されているPID値は実験データに基づく例です。 実際の制御応答は、使用する装置や運転条件によって異なります。
Next
PID調整の次に知りたいこと
PID CONTROL
PID制御とは?P・I・Dの仕組みと温度制御の基本
P・I・Dの働きやPID定数の意味から確認します。
AUTO TUNING
オートチューニングとは?PID定数を自動調整する仕組みと注意点
PID定数を自動的に求める仕組みを詳しく解説します。
POWER CONTROL
サイリスタレギュレータとは?ヒータの電力を制御する仕組み
MVを実際のヒータ電力へ反映する操作側の仕組みを解説します。
CASCADE CONTROL
カスケード制御とは?2つの制御ループで温度を安定させる仕組み
単一のPID制御では安定させにくい対象で使われる 制御方法を解説します。
FAQ
よくある質問
PID調整とは何ですか?
PID調整とは、実際の制御応答を確認しながら、 目的とする状態へ近づくよう P・I・DなどのPID定数を調整することです。
PID調整ではPVだけを見ればよいですか?
PVだけでなくMVも確認すると、 制御装置がどの程度の操作を要求しているかが分かり、 PIDの問題か設備側の問題かを切り分けやすくなります。
温度の立ち上がりが遅い場合はPIDを変更すればよいですか?
必ずしもPIDが原因とは限りません。 MVがすでに大きい場合には、 ヒータ能力、熱損失、操作機器、負荷、 熱容量なども確認する必要があります。
オーバーシュートしたら、どのPID定数を変更すればよいですか?
オーバーシュートの波形やMVの動きによって 確認すべき内容が異なるため、 一つの変更方法だけで判断することはできません。
PID調整をしても改善しない場合はどうすればよいですか?
センサ、ヒータ、操作機器、熱容量、 むだ時間、外乱など、制御ループ全体を確認します。 設備特性によっては別の制御構成を検討する場合もあります。