高温で接触することが難しい対象
炉内の材料、加熱された金属、ガラスなど、 センサを直接接触させにくい高温対象を離れた場所から測定できます。
温度計測の基礎
放射温度計は、対象物から放射される赤外線などの「熱放射」を捉えることで、 対象物に触れることなく温度を測定する温度計です。 高温の物体、動いている物体、触れることで温度に影響を与えてしまう物体など、 接触式の温度センサでは測りにくい対象の温度測定に利用されています。
ただし、非接触だからといって、どのような対象でも簡単に正確な温度を測れるわけではありません。 対象物の材質や表面状態、放射率、測定距離、測定する範囲、周囲の環境などによって、 測定結果が影響を受けることがあります。
ここでは、放射温度計とはどのような温度計なのか、 なぜ触れずに温度を測れるのか、接触式温度計とは何が違うのかを、 基本からわかりやすく解説します。
放射温度計は、対象物から放射される熱放射を検出し、 そのエネルギーから温度を求める非接触式の温度計です。
私たちの目には見えませんが、温度を持つ物体からは電磁波が放射されています。 一般的な放射温度計では、主に赤外線領域の熱放射を利用して温度を測定します。
対象物に温度センサを直接取り付ける必要がないため、 離れた位置から温度を測定できることが大きな特徴です。 一方、一般的な放射温度計が捉えているのは対象物の表面からの熱放射であり、 物体内部の温度を直接測っているわけではありません。
「放射温度計」のほかに、「赤外線温度計」「IR温度計」「パイロメータ」などの名称を 目にすることがあります。
英語でも Radiation Thermometer、Infrared Thermometer、 Infrared Radiation Thermometer、Pyrometer など、 用途や文脈によって複数の表現が使われています。 一般的な非接触温度測定では赤外線領域を利用するため、 「赤外線温度計」という名称も広く使われています。
名称に違いはありますが、この記事では、 対象物からの熱放射を検出して非接触で温度を求める温度計を 「放射温度計」として説明します。
温度を持つ物体は、その温度に応じた電磁波を周囲へ放射しています。 この現象を「熱放射」といいます。
身近な例では、強く熱した金属が赤く見える現象があります。 非常に高温になると、放射されるエネルギーの一部が可視光として目に見えるようになります。 目に見えない温度領域でも熱放射は存在しており、 放射温度計はこの熱放射を利用して温度を測定します。
物体から放射されるエネルギーは温度と関係しています。 物体の温度が高くなるほど熱放射エネルギーは強くなり、 その波長分布は短波長側へ移っていきます。
この温度と熱放射の波長分布の関係を表す基本的な法則が 「プランクの放射則」です。 放射温度計は、こうした温度と熱放射の物理的な関係を利用して、 対象物に触れることなく温度を求めています。
実際の放射温度計では、測定する温度範囲や対象物の性質などに応じて、 特定の波長域の熱放射を検出します。
放射温度計は、おおまかに「光を集める部分」「光を電気信号に変換する部分」 「電気信号を温度に換算する部分」で構成されています。
対象物 → 熱放射 → 光学系 → 検出素子 → 信号処理 → 温度表示・出力
ここで誤解しやすいのが、 「放射温度計から赤外線を対象物に当て、その反射を測っている」 というイメージです。
一般的な放射温度計は、測温のために赤外線を対象物へ照射しているわけではありません。 対象物自身から出ている熱放射を受けて温度を求めています。
レーザーマーカーを備えた機種もありますが、 レーザーは主に測定位置を確認するためのものであり、 レーザーそのもので温度を測っているわけではありません。
放射温度計は、対象物の表面から得られる熱放射を利用します。 そのため、一般的には対象物の表面温度を測定する機器として使用されます。
例えば、炉内にある材料の表面、搬送中の製品、 加熱された金属表面などを、直接触れることなく測定できます。
一方、表面から見えない内部の温度をそのまま測定できるわけではありません。 内部温度を知る必要がある場合には、熱電対や測温抵抗体などの 接触式温度センサが適している場合があります。
放射温度計は、レーザー光が当たった一点だけの温度を 測っているとは限りません。 実際には、放射温度計から見える一定の範囲から入ってくる熱放射を検出しています。
一般に対象物までの距離が変わると測定する範囲も変化するため、 測りたい対象物の大きさと、放射温度計の測定距離・測定径の関係を確認する必要があります。
測定対象が測定視野に対して小さすぎる場合は、 背景などからの熱放射の影響を受け、意図した温度を測定できないことがあります。
同じ温度の物体でも、材質や表面状態によって熱放射の出方は異なります。 この違いを表す重要な指標が「放射率」です。
放射率は、理想的な完全放射体である黒体を1としたときの、 物体からの熱放射の出方を表す値です。 一般の物体では0から1の間の値をとり、 同じ材質でも表面の粗さや酸化状態などによって変化します。
特に光沢のある金属などは放射率が低く、 周囲からの熱放射の反射による影響を受けやすいため注意が必要です。
熱電対や測温抵抗体などの温度センサでは、 センサを対象物に接触させたり、内部へ挿入したりして温度を測定します。
物体内部の温度を測りたい場合や、 設備にセンサを常設して継続的に温度を測定したい場合などに適しています。
放射温度計では、対象物にセンサを接触させる必要がありません。 対象物からの熱放射を光学的に検出するため、 高温物体や移動する物体などでも離れた位置から測定できます。
また、接触式温度センサのように、 センサ自身が測定対象と同じ温度になるまで待つ必要がないため、 比較的速い温度変化を捉えられることも特徴です。
| 比較項目 | 放射温度計 | 熱電対・測温抵抗体など |
|---|---|---|
| 測定方法 | 非接触 | 接触 |
| 主な測定 | 表面温度 | 表面・内部など |
| 動いている対象 | 測定しやすい | 測定が難しい場合がある |
| 高温対象 | 離れて測定できる | センサの耐熱性を考慮する必要がある |
| 応答 | 比較的速い | センサ構造や設置条件などに左右される |
| 放射率の影響 | 受ける | 基本的に受けない |
どちらが優れているかではなく、 「何を、どこで、どのような状態で測りたいのか」によって 適切な測定方法を選ぶことが重要です。
炉内の材料、加熱された金属、ガラスなど、 センサを直接接触させにくい高温対象を離れた場所から測定できます。
コンベヤ上を移動する製品、回転体、連続的に製造されるフィルムやシートなどを、 対象物の動きを止めずに測定できます。
接触による熱平衡を待つ必要がないため、 短時間で加熱・冷却される対象物などの温度変化を捉える用途に利用できます。
薄いフィルムや小さな部品など、 温度センサの接触自体が対象物の温度に影響する場合にも非接触測定が有効です。
放射温度計は、鉄鋼・金属、ガラス、樹脂・フィルム、食品、 半導体・電子部品など、さまざまな製造工程で利用されています。
鏡面に近い金属などは放射率が低く、 対象物自身からの熱放射だけでなく、 周囲からの熱放射の反射による影響を受けやすくなります。
測定したい対象物が測定視野に対して小さすぎると、 背景などからの熱放射まで一緒に検出してしまいます。 小さな部品や細い線材などでは、 測定距離と測定径の関係を確認することが重要です。
人の目に透明に見える物質でも、 赤外線が同じように透過するとは限りません。 物質によって透過・吸収する赤外線の波長が異なるため、 窓越しの測定では、放射温度計の測定波長と窓材の特性を確認する必要があります。
放射温度計と対象物の間に煙、蒸気、ほこりなどがあると、 対象物からの熱放射が途中で吸収・散乱されたり、 測定光路が遮られたりして測定結果に影響することがあります。
放射温度計では、対象物だけでなく、 対象物までの光路や周囲の熱源なども測定条件の一部として考えることが重要です。
まず、測定したい対象物のおおよその温度範囲を確認します。 放射温度計にはそれぞれ測定温度範囲があり、 低温測定と高温測定では適した方式や機種が異なります。
金属、樹脂、ガラスなど、対象物によって放射特性は異なります。 また、同じ材質でも光沢面、酸化面、粗い表面など、 表面状態によって放射率が変化します。
放射温度計では、設置位置から対象物までの距離と、 実際に測定する範囲の大きさを確認する必要があります。 測定対象が測定視野を十分に満たせる条件で使用することが重要です。
高速で移動する対象物や急激な温度変化を捉えたい場合には、 応答速度も確認します。 また、高温炉の周辺、粉じんの多い場所、水がかかる場所などでは、 放射温度計本体を設置する環境についても検討する必要があります。
一般的な赤外線温度計は、対象物から放射される赤外線を検出して 温度を求める放射温度計として扱われます。 製品や資料では「放射温度計」「赤外線温度計」「IR温度計」など、 複数の名称が使われています。
一般的な放射温度計は、レーザーで温度を測定しているわけではありません。 レーザーマーカーを搭載した機種では、 レーザーは主に測定位置を確認するために使用します。 温度測定そのものは、対象物から放射される熱放射を検出して行います。
一般的な放射温度計は、基本的に対象物の表面から得られる熱放射に基づいて 温度を測定します。 そのため、物体内部の温度を直接測定する用途には適していません。
離れた場所から測定できますが、距離だけで判断することはできません。 測定距離によって測定する範囲が変わるため、 測定したい部分が放射温度計の測定視野を十分に満たしているかを確認します。
どちらも赤外線などの熱放射を利用して非接触で温度を測定します。 放射温度計は設定された測定視野の温度を測定することを主な目的とするのに対し、 サーモグラフィは二次元の温度分布を画像として捉えられることが大きな特徴です。
放射温度計は、対象物から放射される熱放射を利用することで、 対象物に触れることなく温度を測定できる温度計です。
高温物体、移動する物体、温度変化の速い対象物など、 接触式温度センサでは測定が難しい場面でも利用できます。
一方で、対象物の放射率、表面状態、測定距離、測定径、 測定光路や周囲環境などによって測定結果が影響を受けます。
「非接触だから対象物に向けるだけで測れる」と考えるのではなく、 放射温度計が対象物からの熱放射をどのように捉えているのかを理解することが、 正しい温度測定の第一歩です。
放射温度計の選定、測定トラブル、赤外線計測について、 目的に合わせて詳しく確認できます。
選ぶ
放射率、D:S比、測定距離など、 実際に放射温度計を選ぶときのポイントを解説します。
困った
測定値がずれる、合わないときに確認したい 放射率や測定条件などを解説します。
技術を広げる
赤外線を利用して温度だけでなく、 水分・成分・厚さなどを測る仕組みを紹介します。
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