01

Z制御とは?

Z制御は何のための制御?

温度制御では、 「できるだけ早く設定温度まで上げたい」という要求があります。

一方で、 「設定温度を超えたくない」という要求もあります。

例えば200℃まで加熱する設備を考えてみます。

温度がまだ200℃に達していないため加熱を続けていても、 それまでにヒータから加えた熱が設備内部に残っていることがあります。

その熱が遅れて制御対象へ伝わると、 温度が200℃を超えてしまうことがあります。

設定値を超えて温度が行き過ぎる現象を 「オーバーシュート」と呼びます。

Z制御は、 速く温度を上げること設定値付近で行き過ぎを抑えることを 両立させるために、 温度へどのようにエネルギーを与えるかを考える制御です。

PID制御とは何が違う?

一般的なPID制御では、 設定値と測定値の差などから、 P・I・Dの3つの動作を組み合わせて操作量を決めます。

Z制御は、 PID制御とは異なる制御アルゴリズムです。

ただし、 「Z制御ではP・I・Dを使わない」 という意味ではありません。

Z制御でも、 P(比例帯)、I(積分時間)、D(微分時間)という 調整パラメータを使います。

これらのパラメータは、 一般的なPID演算と同じ方法でそのまま使用するのではなく、 Z制御の内部で利用されます。

制御方式 考え方
PID制御 P・I・Dを組み合わせて操作量を求める一般的な制御方式
Z制御 P・I・Dという調整パラメータを利用する、チノー独自の温度制御アルゴリズム

ザゼンソウの温度調節から生まれた

Z制御の発想の原点となったのが 「ザゼンソウ」です。

ザゼンソウは、 早春の寒冷な環境で開花する植物です。

特徴的なのが、 自ら熱を発生させる能力です。

外気温が大きく変化する環境でも、 肉穂花序と呼ばれる部分を およそ20℃に保つ温度調節能力を持っています。

ザゼンソウは、 自身の温度変化に応じて発熱量を調節し、 温度を一定の範囲に保ちます。

この温度変化と発熱の関係をモデル化し、 工業用の温度制御へ応用したものがZ制御です。

ただし、 ザゼンソウの仕組みをそのまま機械へ移したわけではありません。

工業用の温度制御として必要な立ち上がりや、 設定値付近での制御精度を得られるように 制御方法を発展させています。

02

なぜ温度制御ではオーバーシュートが問題になる?

オーバーシュートとは?

例えば設定温度が200℃の場合でも、 実際の温度が200℃を超えることがあります。

このように、 測定値が設定値を超えて行き過ぎる現象を オーバーシュートと呼びます。

一時的に設定温度を超えても問題にならない工程もありますが、 処理温度に上限がある場合には、 製品品質や工程へ影響することがあります。

熱が伝わるまで時間がかかると制御が難しくなる

温度制御を難しくする要因の一つが 「むだ時間」です。

むだ時間とは、 操作してから、その影響が測定値として現れ始めるまでの時間です。

例えばヒータと温度センサが離れている場合、 ヒータへ電力を与えても、 温度センサの値はすぐには変化しません。

ヒータが発熱し、 その熱が設備内部を伝わり、 制御したい場所の温度が変化して、 はじめて温度センサがその変化を捉えます。

その間も「まだ温度が低い」と判断して 大きな出力を与え続けると、 設備内部には多くの熱が蓄えられていることがあります。

その熱が遅れて制御対象へ届くことで、 オーバーシュートにつながります。

速く上げることと、行き過ぎないこと

オーバーシュートを小さくするだけなら、 加熱を弱くして、 ゆっくり温度を上げる方法も考えられます。

しかし、それでは設定温度へ到達するまでに 長い時間がかかります。

温度制御では、 速く設定値へ到達すること設定値を大きく超えないことの 両立が重要です。

03

Z制御はどのような考え方で温度を制御する?

現在の温度だけでなく、温度の変化を見る

Z制御では、 現在の温度だけではなく、 温度がどのように変化しているかも考慮します。

例えば、 単に「現在180℃」という情報だけでなく、 「180℃で、さらに温度が上昇している」 という変化も重要になります。

温度が設定値へ向かって上昇しているのであれば、 それまでに加えた熱によって、 この先も温度が上昇すると考えられます。

そこで、 設定値へ到達する前から、 必要以上のエネルギーを与えないように出力を調整します。

必要以上のエネルギー投入を抑える

むだ時間が大きい設備では、 温度がまだ低いからと加熱を続けることで、 必要以上の熱を設備へ与えてしまう場合があります。

Z制御では、 温度変化や設備へ与えているエネルギーを考慮し、 設定値へ近づくにつれて 必要以上のエネルギー投入を抑えます。

段階 考え方
立ち上がり 設定値へ近づくために必要なエネルギーを与える
設定値へ近づく 温度変化を見ながら必要以上の出力を抑える
設定値付近 温度を安定して維持する

設定値付近では安定した温度を保つ

温度を設定値付近まで運ぶだけでは、 温度制御として十分ではありません。

到達した後は、 その温度を安定して維持する必要があります。

Z制御では、 ザゼンソウの温度調節をもとにした考え方に加えて、 工業用の温度制御として設定値付近の精度を維持するための 補償を組み合わせています。

これによって、 設定値へ近づくまでの制御と、 設定値付近で安定させる制御を組み合わせています。

04

Z制御とPID制御は何が違う?

項目 PID制御 Z制御
基本的な考え方 偏差などからP・I・Dを組み合わせて操作量を決める 温度変化やエネルギー投入を考慮する独自アルゴリズム
P・I・D PID演算に使用する Z制御の調整パラメータとして使用する
オーバーシュート PID定数などを調整して抑える オーバーシュートの抑制を重視した制御が可能
むだ時間 大きくなると調整が難しくなる場合がある むだ時間の長い温度系でも活用できる
位置づけ 幅広い分野で使われる一般的な制御方式 温度制御を対象としたチノー独自の制御アルゴリズム

PIDより優れている、と単純には言えない

Z制御は、 PID制御より常に優れているというものではありません。

PID制御で十分な温度応答が得られる設備も数多くあります。

一方で、 オーバーシュートや長いむだ時間など、 PID制御では調整が難しい温度制御に対して、 Z制御が選択肢になります。

大切なのは、 「PIDとZ制御のどちらが上か」ではなく、 どのような温度応答を実現したいのか から制御方式を考えることです。

05

Z制御はどんな温度制御に向いている?

オーバーシュートを抑えたい設備

設定温度を超えることが 品質や工程へ影響する設備では、 オーバーシュートをどの程度抑えられるかが重要になります。

Z制御は、 設定値へ近づく段階で必要以上のエネルギー投入を抑えることで、 オーバーシュートの抑制を目指します。

熱が伝わるまでに時間がかかる設備

大型炉などでは、 ヒータから制御したい場所へ熱が伝わるまでに 時間がかかる場合があります。

このようなむだ時間の長い設備では、 測定温度だけを見ながら制御すると、 加熱した結果が分かるまでに時間がかかります。

Z制御は、 このような温度系でも活用できます。

温度の安定とエネルギー消費を考えたい設備

必要以上の加熱を抑えることができれば、 無駄なエネルギー投入の低減にもつながります。

ただし、 Z制御を使えば必ず一定量の省エネルギー効果が得られる、 という意味ではありません。

設備の構造、運転条件、 従来の制御状態などによって効果は異なります。

06

Z制御の適用例

金属熱処理

金属の熱処理では、 設定した温度まで加熱した後、 その温度を一定時間維持する工程があります。

このような工程では、 設定温度への到達時間だけでなく、 オーバーシュートや、 設定値付近で安定するまでの時間も重要です。

Z制御は、 こうした熱処理の温度制御にも適用されています。

プラズマ窒化炉

プラズマ窒化は、 金属表面を硬化させるための表面処理方法の一つです。

処理中の温度管理が必要であり、 Z制御を利用した温度制御例があります。

プラズマ窒化炉の温度制御を見る

高周波誘導加熱

高周波誘導加熱では、 コイルによって発生させた磁界を利用し、 金属そのものを発熱させます。

焼入れ、焼鈍、ろう付け、溶解などに利用される加熱方法です。

このような加熱設備でも、 Z制御を選択できる温度制御システムがあります。

高周波誘導加熱によるエンジンバルブの焼入れを見る

大型真空炉など、むだ時間の長い設備

大型の真空炉などでは、 ヒータと炉内の間に壁や断熱材などがあり、 ヒータの熱が制御したい場所へ届くまでに 長い時間がかかる場合があります。

このような設備では、 Z制御とカスケード制御の考え方を組み合わせた 制御方法もあります。

カスケード制御とは?2つの制御ループで温度を安定させる仕組み

07

Z制御を使えば温度制御の問題は解決する?

Z制御は、 温度制御のための一つの選択肢です。

Z制御を使用するだけで、 すべての温度制御の問題が解決するわけではありません。

温度制御の結果には、 温度センサ、センサの設置位置、 ヒータの能力、設備の熱容量、 熱の伝わり方、むだ時間、外乱、 制御パラメータなどが影響します。

要素 主な役割
温度センサ 現在の温度を測定する
調節計・制御アルゴリズム 測定値から必要な操作を決める
操作機器 ヒータなどへ与える電力を調整する
ヒータ 電力を熱へ変える
制御対象 実際に温度が変化する設備・製品

Z制御を検討するときも、 「どこで温度を測るのか」 「ヒータの熱がどう伝わるのか」 「どの程度のむだ時間があるのか」 まで含めて考えることが重要です。

08

PID制御からZ制御へ変更すればよい?

現在のPID制御で必要な温度応答が得られているのであれば、 必ずZ制御へ変更する必要はありません。

まず、 現在の温度制御の何が問題なのかを確認します。

  • オーバーシュートが大きい
  • 設定値付近で安定するまで時間がかかる
  • むだ時間が長くPID調整が難しい
  • 外乱によって温度が大きく変化する
  • 必要以上の加熱が発生している

PID定数の調整、 センサ位置、 ヒータ能力などを確認したうえで、 制御方式そのものを見直す必要がある場合に、 Z制御が選択肢になります。

09

Z制御の設定・調整

Z制御でもP・I・Dを設定する

Z制御では、 P(比例帯)、I(積分時間)、D(微分時間)を 調整パラメータとして使用します。

ただし、 一般的なPID制御と内部のアルゴリズムが異なるため、 PID制御で使っていたP・I・Dをそのまま設定すれば 同じ応答になるとは限りません。

制御対象の特性と実際の温度応答を確認しながら調整します。

オートチューニングを利用できる機種もある

Z制御に対応する温度調節計には、 オートチューニングによって P・I・Dを求められる機種があります。

ただし、 オートチューニングで求めた値が あらゆる設備にとって最適な応答になるとは限りません。

求める温度応答に応じて、 実際の波形を確認することが重要です。

オートチューニングとは?PID定数を自動調整する仕組みと注意点

機種によって設定や機能が異なる

Z制御に対応する調節計でも、 利用できる設定や補助機能は機種によって異なります。

実際に使用する場合には、 対象機種の製品仕様や取扱説明書を確認してください。

本記事では、 個別製品の設定方法には踏み込みません。

Biomimetics

Z制御は「ザゼンソウをまねした制御」?

Z制御の発想の原点はザゼンソウですが、 ザゼンソウの仕組みをそのまま再現したものではありません。

ザゼンソウの温度調節をモデル化しただけでは、 工業用制御として求められる設定値への到達速度や、 設定値付近での制御精度などに課題があります。

そこで、 工業用の温度制御として利用できるように、 設定値への立ち上がりと、 設定値付近での安定性を考慮した制御へ発展させています。

Z制御は、 ザゼンソウの温度調節から着想を得て、 工業用の温度制御へ応用した制御アルゴリズム と理解すると分かりやすくなります。

FAQ

よくある質問

Z制御とは何ですか?

Z制御は、 ザゼンソウの温度調節の仕組みに着目して開発された、 チノー独自の温度制御アルゴリズムです。 オーバーシュートの抑制や 安定した温度制御などを目的としています。

Z制御はPID制御ではないのですか?

一般的なPID制御とは異なる制御アルゴリズムです。 ただし、Z制御でもP・I・Dという調整パラメータを利用します。

Z制御にするとオーバーシュートはなくなりますか?

必ずなくなるわけではありません。 Z制御はオーバーシュートの抑制を目指した制御ですが、 設備の熱特性、センサ位置、ヒータ能力、 設定などによって実際の応答は変わります。

Z制御はどんな設備に向いていますか?

オーバーシュートを抑えたい設備や、 ヒータを操作してから温度変化が現れるまでの むだ時間が長い設備などで活用できます。

Z制御は省エネルギーになりますか?

必要以上のエネルギー投入を抑えることは、 省エネルギーにつながります。 ただし、実際の効果は設備や運転条件によって異なります。

PID制御とZ制御はどちらが優れていますか?

どちらかが常に優れているわけではありません。 現在のPID制御で必要な性能が得られている場合もあります。 設備の特性と求める温度応答から制御方式を選びます。

Z制御でもオートチューニングできますか?

対応機種ではオートチューニングを利用できます。 具体的な機能や実行方法は機種によって異なります。

References

Z制御についてさらに詳しく知りたい方へ

Z制御の制御特性や、 長いむだ時間を持つ設備への応用について さらに詳しく知りたい方は、 以下の学術論文・講演資料もご覧いただけます。

Z制御の応用事例 ―長むだ時間系の対策―

仲摩 崇、石橋 政三、今村 藍介、尾島 大樹、桜井 智広(チノー)、 伊藤 菊一、長田 洋(岩手大学)
第57回自動制御連合講演会
2014年11月10日~12日

AHP法に基づく制御評価と制御パラメータ調整指針

石橋 政三
電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌)
Vol.136, No.5, pp.609-616
DOI: 10.1541/ieejeiss.136.609

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